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変貌する国際都市ジュネーブ

WHOが中国で新型コロナの起源調査を開始、組織の信頼回復なるか

今から約1年前に中国で初めて確認された新型コロナウイルスは私たちの生活を激変させた。このウイルスの発生源はどこにあるのか?事実究明に向け、ついに世界保健機関(WHO)の調査団が中国を訪れた Keystone / David Chang

世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大から1年経った今、世界保健機関(WHO)の調査団が隔離期間を終え、中国・武漢でウイルス起源の調査を開始した。これがグローバルヘルスとWHOの信頼性にどれほど重要な影響を及ぼすのかを検証した。

このコンテンツは 2021/02/04 08:30

COVID-19は、多くの科学者が言うようにコウモリが感染源なのか?その場合、コウモリから人間にウイルスを媒介する中間宿主はいたのか?WHOの調査チームは主に動物由来に注目して調査を進めるが、研究室から誤って流出した可能性なども検証する必要があると研究者らは言う。

ジュネーブ大学グローバルヘルス研究所のアントワヌ・フラオー所長は、WHOの調査は「もっと早く始めるべきだった」と言う。「しかし、このパンデミックの起源を究明することは非常に重要だ」

ロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)の中国研究所所長、スティーブ・ツァン教授も、「事の発端を理解しなければ、状況を変えたり再発を防止したりすることはできない」とうなずく。

中国における制約

しかし、その任務は容易ではない。フランス戦略研究財団の中国専門家、そしてパリ政治学院(シアンスポ)で教授を務めるアントワヌ・ボンダス氏は、調査を進める上で主に問題になるのは、国連調査員の作業を阻む中国の政治的制約だと指摘する。「鍵を握っているのは国連の専門家ではなく、中国の科学者だ。そして問題は、中国の政治当局が中国の科学者らに独立して仕事を遂行することを認めるかどうかだ」

だがツァン氏は、それはあり得ないと考える。国際的な専門家と接触する中国人科学者は指導を受けている可能性があり、公式見解に反することを言わないよう監視されていてもおかしくないと指摘する。中国当局は、中国がコロナ発祥地ではないと国民が信じるよう(他国では通用しなかったが)手を尽くしてきたと言う。そして中国政府は何よりも共産党と習近平国家主席の存続を優先し、そのためなら健康上の懸念でさえ二の次になるかもしれないと付け加えた。中国はむしろ、ウイルスの発生源は中国ではなく、世界中が手をこまねく中、中国はウイルスの抑制に貢献してきたと主張する。そしてパンデミックの間、特にマスクの供給で各国をサポートしたというのが北京の言い分だ。

こうした状況下で任務を遂行するのは、WHOにとって容易ではない。ボンダス氏は、ジュネーブを拠点とするWHOの信憑性が大きく揺らいでいると考える。「この調査はWHOの信憑にかかわる。もし最終的に事実を究明できなければ、WHOの存在価値が問われることになるだろう」

WHOへの批判

WHOはこれまでも(特に米トランプ前政権から)中国寄りだと批判されてきた。スイスを拠点に活動するグローバルヘルスの第一人者、イローナ・キックブッシュ氏は最近のインタビューで、米中貿易戦争といったパンデミック以前から続いていた世界的な緊張がパンデミックへの取り組みに影を落としたと語った。冷戦時代の天然痘や、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)のような過去の世界的な健康危機もまた、地政学的に緊迫する中で発生している。それでも世界は何とかして問題を克服し感染拡大を食い止めてきたのだが、今回は違った。WHOもその結果、対応に苦しんだのかもしれない。

この前例のないパンデミックに際し、WHOは昨年初頭に中国が出した声明を繰り返しただけで、対応が遅すぎたと批判されている。もし中国当局が、ウイルスが人から人へ感染する可能性があると知りながら発表を控えていたとすれば、必要な対策を取るための貴重な数週間が失われたことになる。また、エチオピア出身で中国と密接な関係にあるWHOのテドロス・アダノム事務局長の辞任を求める声も上がっている。調査団のビザに問題が生じた今年1月、同氏は初めて中国当局に対し失望を表明した。

しかしボンダス氏は、調査には加盟国の善意と協力が不可欠であるため、WHOも他の国際機関と同じように外交の手腕が問われるだろうと言う。「中国当局を公然と批判した結果、中国へのアクセスや協力が断たれるリスクを冒すかどうかが悩みの種だ」

改革への呼びかけ

WHOと活動を共にしてきた疫学者のフラオー氏も同様の指摘をする。「ミッションを遂行する場合、WHOはまず加盟国の許可を得なければならず、それから具体的な構成や日程の交渉に入る」。また、場所や条件の交渉も伴う。これは改めるべきだと同氏は考える。「いつどの国でも、独自の国際的専門家を率いて調査を行い、調査チームのメンバーを自由に決定できる権限がWHOには必要だ。原発や化学工場をめぐる軍縮会議がそうであるように」

WHOの委託を受けた専門家パネルは今年1月に出した中間報告書他のサイトへで、WHOが行う世界的なパンデミック宣言は「目的にそぐわない」と述べている。リベリア共和国のエレン・ジョンソン・サーリーフ前大統領とニュージーランドのヘレン・クラーク元首相が率いるこの専門家パネルは、「人から人への感染の可能性について、よりタイムリーで強力な警告がWHOと国や地方自治体の両方から出せたかもしれない」と指摘。そしてCOVID-19をめぐる世界的な対応を評価する上で、WHOの対応は加盟国に依存しすぎだと述べた。

報告書を発表したクラーク元首相は、WHOには課題に取り組む手段がない上、加盟国の協力なしには調査団を送ることもできないと指摘。またジョンソン・サーリーフ前大統領は、WHOにより良い手段がない限り、健康上の緊急事態が発生したとき各国に必要な指示を「タイムリーに」出すことは難しいと付け加えた。

同パネルの最終報告書は今年5月に提出される予定。WHOへのより良い資金調達や独立性の向上といった改革を訴えている。

WHOの調査に期待できることは?

いずれにしてもWHOは当面の間、今ある手段を駆使して課題に取り組まなければならない。では、中国に派遣されたWHOの調査団に何が期待できるのか?

ツァン氏は、WHOの科学者は独立して作業を進めるよう努めるだろうと考える。「問題は、中国からどれだけサポートを得られるかだ。恐らく調査団の結論が中国のイメージアップにつながると見なされた場合にのみ、協力を得られるだろう」

ボンダス氏はまた、公式見解の枠を超え、何が起こったのかを完全に究明できるか否かは、中国当局次第だと強調した。しかし「残念ながら、それについては強い疑念を抱いている」と述べた。

一方、調査団のメンバーを知るフラオー氏は楽観的だ。独立した高い技術を持つ専門家から成る調査団は、「研究者として行動し、クラスターが発生したとされる海鮮市場の動物や住民、団地からサンプルを採取して調査を進めるはずだ。もし現場への立ち入りが禁止されれば大きな不満を抱くとともに、その意を表明するだろう。中国滞在中は発言を控えるかもしれないが、帰国後には公になることだ」。そして中国当局もそれは百も承知しているため、国際的な信頼性を危険にさらすような真似はしないだろうと同氏は考える。

「中国を非難するのが目的なのではない。これはグローバルヘルスに関わる問題なのだ」(ツァン氏)

(英語からの翻訳・シュミット一恵)

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