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「白人の救世主は要らない」 援助受ける途上国の本音は?

コンゴ民主共和国で活動するスイス福音教会救援機関(HEKS/EPER)のスタッフ YouTube/SAIH Norway

アフリカや南米の貧しい人々が支援を求め、白人が救世主となって救いの手を差し伸べる――。開発援助にはそのようなステレオタイプが根強く残る。その背景にある植民地主義を探った。

このコンテンツは 2021/10/11 08:30

若い米国人女性が2009年にウガンダを訪れた。貧しい人々を助けることが目的だった。初めは困窮家族に無料で食事を提供していたが、次第に活動の幅を広げ、援助団体を設立し、栄養失調の子供たちを治療するヘルスセンターも立ち上げた。

だが、子供を亡くした母親たちが20年、専門教育を受けていない身分で子供に医療処置を施したとして、この米国人女性を訴えた。

この訴訟はウガンダで大きな話題になった。ソーシャルメディア上では活動家たちが#NoWhiteSaviors(白人の救世主は要らない)運動を展開した。今回の件は、必要なスキルもない特権階級の若い白人が現地の状況も調べずにアフリカへ渡り、支援者を気取って働いた典型的な例だと炎上した。

この米国人女性はフォックス・ニュースで自身の見解を述べている。

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地元民が主導権を握るべき

ナイジェリア系米国人作家のテジュ・コール氏は、「白人の救世主(White Savior)」による支援活動を批判する記事をすでに12年に発表している。白人の救世主とは、米欧からアフリカに乗り込んで神のような救世主になろうとしたり、少なくとも自分の感情的な欲求を満たそうとしたりする俗人を皮肉っている。そうした人々を中心とした社会的な産業構造を、同氏は白人の救世主産業複合体(White Savior Industrial Complex)と呼ぶ。もし米国人としてアフリカを支援したいのであれば、まずは米国の外交政策に関心を持ち、選挙を通じてそれに直接的な影響を及ぼすべきだと同氏は説く。

ウガンダの訴訟は、告発された米国人女性が賠償金を支払う形で裁判外で和解した。だが議論の本質は今も解決していない。

政治学者のフェイ・エコン氏は、社会変革について研究する傍ら、取締役を務めるRavelworks Africaで企業に助言を行っている zvg

英国系ナイジェリア人の経営コンサルタントであり、政治学者のフェイ・エコン氏も「この議論は注目を浴びており、話題性が高い」と語る。同氏は子供時代にガーナのスイス系学校に通い、現在はケニアで働く。重要なのは開発協力の中止や、人道支援の提供者から白人を除外することではなく、「(人道支援は)地域社会の人々が主導して行うべき」と言う。

このような支援方法は専門用語で「支援の現地化」という。ここで重要なのは、誰が資金の使い道を決めるかだけではない。支援内容を見える化し、最終的に誰の功績にするかを決めることだ。つまり「グローバル・サウス(主に南半球の発展途上国)の人々は、白人に自分たちの国を救ってもらいたいとは思っていない」(エコン氏)。アフリカで褐色の肌の子供たちと一緒に写真を撮り、英雄として称えられる白人のハリウッドスターはもう求められていないという。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)特使を務める、ハリウッド俳優のアンジェリーナ・ジョリーさんは19年、ベネズエラから逃れてきた子どもたちと言葉を交わした Keystone / Andrew Mcconnell / Handout
ユニセフ(国連児童基金)親善大使として、15年にリベリアを訪れたハリウッド俳優のオーランド・ブルームさん Keystone / Unicef Handout

エコン氏は、「#NoWhiteSaviors」運動に関する議論が肌の色を中心とした、憎悪を巻き込んだ感情論に発展してしまい、実りある対話が困難になったと残念がる。白人の支援者には、ぜひ自らの行動を振り返ってもらいたいという。「なぜ自分がプレゼンテーションをし、寄付者に呼びかけ、ソーシャルメディアに投稿しなくてはならないのかを考えるべきだ」。解決すべき社会問題は、程度の差はあれ、欧州にも米国にもオーストラリアにも存在する。わざわざ他の国に行ってそうした問題を解決しようとする理由を、支援者は自問すべきだと同氏は主張する。

ジュネーブで物乞いする女性、2021年5月 Keystone / Salvatore Di Nolfi

古い議論に新たな注目

この議論は今に始まったものではない。学術分野では、少なくとも1950年代からこれに関する論文が体系的に執筆されてきた。しかし、ソーシャルメディア上で展開される「#NoWhiteSaviors」運動は、大学図書館に所蔵されている書物や論文よりも大きな注目を集めている。

エコン氏は「開発援助の脱植民地化についての議論は、グローバル・サウスでは数十年も前から行われている。グローバル・ノースで気づかれなかっただけのことだ」と話す。転機をもたらしたのは、米国のジョージ・フロイドさん殺害事件と、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動のうねりだった。

開発協力の基本構造

モザンビークで生まれ育ち、アフリカ地域研究を専門とするバーゼル大学のエリシオ・マカモ教授(社会学)も、白人の救世主を巡る議論を追っている。「大げさにしている部分もあるように思う。白人との開発協力は望まず、哀れみはいらない、といった主張が議論の中心になっている印象がある。しかし、根本的な問題は開発協力の基本構造の方にあるだろう」。つまり、資金のある国が主導し、形作り、影響を与えるという開発援助システムが問題だと、同氏は指摘する。

こうしたシステムがあるために、植民地的な構造が維持されると同氏は考える。英国のNGOピースダイレクトは報告書他のサイトへの中で、開発援助システムにおける多くの慣行や考え方は、植民地時代を反映していると結論づけた。しかし、グローバル・ノースの団体や寄付者の中に、それを認めようとする人はあまりいない。ピース・ダイレクトによると、資金の流れは過去の植民地関係を多分に反映しており、旧宗主国は自国の旧植民地に優先的に投資している。一方、意思決定権はグローバル・ノースに集中している。

「援助システムは、既存の『権力の力学』を強化するよう構築されている」とエコン氏は言う。「資金と知識は北から南へと流れる。資金の用途を決定するのは北だ」

swissinfo.ch

植民地なきスイスの植民主義的態度

スイスは植民地を所有したことはないが、だからといって植民地主義と無縁とは言えない。

マカモ氏は「スイスの開発援助システムは今もなお植民地主義的だ」と言う。「スイスは他の国が『自ら引き起こした』問題の解決を支援している、というのが一般的な認識だ。だがその問題の背景に世界経済がある点は考慮されていない」。しかし、スイスの市民社会や研究者の間では自己批判的な議論が行われていると、同氏は強調する。

一方、スイスがどの国よりも率先して行っていることが1つある。スイスは途上国の汚職資金がスイスの口座に送金された場合、その資金が再び汚職に使われるのを防ぐため、開発援助プロジェクトの形で当該国に返還しているのだ。当該国との協議を重視するスイスだが、スイスの返還方法がグローバル・サウスでいつも歓迎されているとは言えない。

マカモ氏もエコン氏も、スイスがこのように資金を返還する意図は理解できるとしながらも、そうした対応は植民地主義的だと考える。マカモ氏は、善意のスイスと腐敗した途上国という捉え方は歓迎できないと話す。エコン氏は次のような例え話でまとめる。「私が道端であなたのクレジットカードを見つけたとしよう。明細書を見ると、あなたが香水など必要不可欠ではないモノにたくさんお金を払っていることが分かる。そこで私はあなたにクレジットカードを返す代わりに、近くのスーパーへ行き、あなたのために野菜・果物対象の割引券を購入する。スイスがこうしたことをする理由は理解はできるが、現状でそれが最善の方法とは言い切れるだろうか?」

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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