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「歩きスマホ」理論のイグ・ノーベル賞に貢献したスイス人研究者

2021年のイグ・ノーベル動力学賞の共同受賞者の1人、クラウディオ・フェリシアーニ氏はスイス南部ティチーノ州出身だ Claudio Feliciani

ユーモラスな科学的研究に贈呈されるイグ・ノーベル賞の「動力学」部門は今年、再びスイスが受賞した。共同受賞者の1人で、東京大学で研究に当たるクラウディオ・フェリシアーニ氏を取材した。

このコンテンツは 2021/09/10 17:32

科学は必ずしもマジメなわけではない。むしろ人々を笑わせたり、反省させたりすることもある。これは、ユニークな科学研究を紹介する米誌「Improbable Research(ありそうもない研究)」の掲げる命題だ。同誌のマーク・エイブラハムズ編集長が創設したイグ・ノーベル賞は毎年、最も奇妙な科学的、技術的、医学的成果、研究方法論やその結果に対して授与される。

スイスはこれまでに数回、複数の部門で受賞している。2008年のイグ・ノーベル平和賞は、「植物にも尊厳がある」とする報告書他のサイトへを執筆したスイス連邦非人間生命倫理委員会とスイス国民に授与他のサイトへされた。(うちの居間にある観葉植物のフィロデンドロンが、このことにどうか気づきませんように)

スイスは翌年も平和賞を受賞。授与されたのは、空のビール瓶と満杯のビール瓶のどちらで頭を殴られた方が良いかを研究したベルン大学の研究チームだった。

動力学賞を受賞するのは今年が初めて。動力学賞は「なぜ一部の歩行者は他の歩行者と衝突するのか」に焦点を当てた。一方、物理学賞は「歩行者が常に他の歩行者と衝突しない理由」を研究したチームに贈られた。

動力学賞の受賞研究他のサイトへは3月にサイエンス誌のオンラインポータルに掲載された。スイス・ティチーノ州出身でスイスとイタリアの二重国籍を持つ東京大学の特任准教授、クラウディオ・フェリシアーニ氏も研究チームの1人だ。

京都工芸繊維大学の村上久助教(集団行動科学、論文の筆頭筆者)、東京大の西成活裕教授、長岡技術科学大の西山雄大講師から成る研究チームは、予想外の受賞に驚いたという。swissinfo.chは受賞者の発表直後にクラウディオ・フェリシアーニ氏にインタビューした。

2021年のイグ・ノーベル賞動力学賞を受賞した反応速度論研究の筆頭著者、村上久氏 Claudio Feliciani

swissinfo.ch:おめでとうございます、と言って良いのでしょうか。イグ・ノーベル賞の受賞は科学者にとって誇りになりますか、それとも冗談みたいなものですか?

クラウディオ・フェリシアーニ:とても嬉しいです。そして、私が知る限り、科学界では名誉なことです。おそらく科学界ではない人々にとって、(この賞が)人々を笑わせるだけでなく、非常にまじめな側面があることを理解するのは難しいかもしれませんね。一般的に、イグ・ノーベル賞の受賞研究は、評判の高い科学雑誌に掲載されています。ほとんどの場合、研究は見た目ほどつまらないものではないことを科学者仲間は分かっています。

また(主催者側)は、賞を贈る前に私たちが気分を害していないか確認の電話をくれました。時には腹を立てる人もいるのかもしれませんね。でも私たちはそんなことはなく、全く逆でした。

swissinfo.ch:驚きましたか?

フェリシアーニ:はい、全く予想していなかったことだったので。私は現在、社会心理学の研究を行っているため、(受賞研究は)通常の研究対象ではありません。私は日本の性的受動性の現象、つまり恋愛関係やセックスに興味を失った人々に焦点を当てています。都市計画家、性科学者、心理学者とともに、この現象が人口密度の高い日本の都市の生活条件に関連しているかどうかを理解しようとしています。

この研究に関しては、私はイグ・ノーベル賞を目指せる研究で、賞をもらうために何でもすると冗談を言っていました。それが、受賞を全く期待していなかった別の研究で受賞していたとはね。3月に発表した歩行者調査は、ニューヨーク・タイムズのような著名紙が取り上げてくれました。私はイグ・ノーベル賞を取ったことの方が満足しています。

swissinfo.ch:あなたの研究に対する選考委員会の内容説明は正しいですか?

フェリシアーニ:少しもどかしい部分もありますが、技術的には間違っていません。私たちの実験で歩行者が衝突したというのは正しくありません。歩行者同士の衝突につながるメカニズムを発見したと言った方が、もう少し正確でしょう。

公式にはこの研究は、個人レベルのどういったメカニズムが、集団レベルでの自己組織化構造の作成に寄与するかを理解するためのものでした。

swissinfo.ch:実験はどんな内容だったのでしょうか?

フェリシアーニ:双方向の流れ、つまり反対方向から歩いてくる2つのグループの人々を観察しました。例えば青信号が消えた時に横断歩道で発生するような状況です。

東京大学の駒場キャンパスからそう遠くないところにある渋谷のスクランブル交差点は、群衆の動きの研究者に多くの洞察を与える Keystone / Kimimasa Mayama

一人ひとりが目の前にいる人を追いかける傾向があり、すぐに自発的な人の列が形成されます。私たちはそれらを形成するメカニズムが何であるかを理解しようとし、この自発的な組織化をより難しくする条件を作り出しました。

具体的には、実験の参加者に携帯電話で簡単な計算を解きながら歩いてもらい、気を散らしました。54人のうちたった3人が他のことに集中しただけで、列の形成がずっと遅くなりました。特にその人たちが先頭にいるときは顕著でした。気の散っていない人がより注意深く歩いても、気が散っている人の穴埋めはできません。

▲実験の動画。前半は注意散漫な歩行者がいない場合に列が形成される様子、後半(00:22~)は注意散漫な歩行者が群衆の先頭に入る場合。

群衆がスムーズに動くためには、非言語的かつ相互的なコミュニケーションが必要であることが分かりました。

要するに、衝突コースにいる2人は、衝突を回避するために互いの動きを予測し、同時にその意図を伝えることが重要なのです。

些細なことのように思える結論かもしれませんが、それこそがおそらく私たちが受賞した理由です。人が何かに気を取られると、他の人と衝突しやすくなります。そして、携帯電話を見ている人がいると、何かをするのに時間がかかるのも当然です。

しかし実際には、その影響は非常に興味深いことが分かりました。

swissinfo.ch:それが示唆することは何でしょうか?

フェシリアーニ:例えば、自動運転やロボット工学で役立つ可能性があります。一部の研究者たちは、群衆の中を移動できるロボットを作ろうとしています。買い物に行く高齢者に同行し、手助けするといったアシスタントの役割をするロボットです。

仕事中のロボットは人々に衝突してはならないのです。己が解決できる以上の問題を生まないよう、スムーズに動かなければなりません。

環境に適応させるために、距離や温度などを測定するセンサーをぎゅうぎゅうに詰め込まなければならない、というのが一般的な意見です。

問題は、私たちが指摘したように、この原則が根本的に間違っているということです。自分の意図を伝え、他の人の意図を認識する効果的な方法がなければ、ロボットは常に動く障害物になります。

自動運転車についても同じことが言えます。群衆の中をゆっくりと移動しなければならない状況では、非常に正確なセンサーを備えるだけでは不十分です。明確に意思表示させないと、今よりも交通事故が起こりやすくなります。

swissonfo.ch:次のステップは何ですか?

フェシリアーニ:私たちの実験から、双方向の流れの中を歩く人々は暗黙のメッセージをやり取りして、他の人に彼らがどの方向に移動したいかを理解させることが分かりました。しかし、このメッセージの伝達形態が何であるか、まだ完全に解明できたわけではありません。

それは目の動きかもしれません。あるいは身体が取る位置かもしれません。この点を追究するために、私たちは人々の視線を追跡する眼鏡を使った実験を始めました。私たちは答えを見つけたいと思っています。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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