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難民申請者のスマホで身元確認 スイスで批判の的に

世界的にソーシャルメディアが普及した今、スマホやアプリで亡命計画を立てる人たちが増えている Keystone / Boris Grdanoski

スイスは、難民申請者の身元確認のためにスマートフォンデータを調査する。欧州他国に追随する形だが、難民支援団体からは批判の声も出ている。

このコンテンツは 2021/10/07 11:00

スイス連邦議会は9月15日、携帯電話のデータ解析が難民申請者の身元を特定する唯一の手段である場合には、連邦移民事務局にデータアクセスを許可するという議員発議を承認した。

これにより当局は、携帯電話、コンピューター、タブレット、スマートウォッチなどに保存されたデータを調査できるようになる。デジタルプログラムで抽出・収集された情報は、安全なサーバーに1年間保存される。

Keystone / Muhammed Muheisen

スイスに庇護を求める人たちの多くは、入国する際、自分の身元を証明する書類を所持していない。今回承認された新法により当局がスマホデータにアクセスできることで、難民申請者の年齢や出身国の確認が可能になると期待されている。現時点では、正式な導入時期は決まっていない。

この法案を提起した右派・国民党のグレゴール・ルッツ議員は、「当局が個人の身元確認に大量の情報が入ったデバイスを当てにする権利もなく、やみくもに手続きを進めなければならないのは不条理だ」と主張する。

議会審議の中でカリン・ケラー・ズッター司法警察相は、この措置が個人を特定する目的以外で使用されることはないと断言し、「濫用を避け、プライバシーを尊重するために様々なセーフガードが設定されている」と付け加えた。

プライバシーの侵害

難民支援団体は、重大な犯罪を犯した人物を監視する場合とは異なり、この措置が裁判所の管理下に置かれずに適用される点を批判している。

スイス難民援助機関(SFH/OSAR)の広報担当者エリアンヌ・エンゲラー氏は、「この措置は行き過ぎで、プライバシー権の重大な侵害にあたる」と述べる。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)もまた、各国政府が自国への入国者を特定する必要性は認めるものの、個人情報への完全なアクセスは国際法とスイス連邦憲法で保護されているプライバシー権を大きく侵害するものだとして批判する。

UNHCRスイス・リヒテンシュタインのアニヤ・クルグ支部長は、「このような介入は一定の条件下においてのみ認められるものだが、同法はその条件を満たしていない」と述べる。

そして携帯電話のデータ解析は、難民申請者の身元や国籍、移動ルートを割り出すための適切な方法ではないと主張する。「避難する際は密入国仲介人なども含め、1つの携帯電話を複数の人が使用する可能性がある。そのため、データを一個人に帰属させるのが困難な場合がある。また、デジタルな証拠は簡単に改ざんしたり消去したりもできる」

国際的反応

スイスの新法は、欧州他国の流れに沿ったものだ。

15年の難民危機を受け、ドイツ、デンマーク、ベルギー、オーストリアなど欧州の複数国が、難民申請者の携帯電話データを調べるようになった。だが、このやり方はNGOや政党の両方から広く非難された。ベルギーとオーストリアは合法化はしたものの、データ保護の観点から批判が強く、運用例はまだない。

ドイツでは17年に移民の携帯電話の解析が合法化されたが、実際には運用しにくくなっている。

ベルリン行政裁判所は今年6月、19年にパスポートを持たないアフガン女性が難民申請手続きをした件において、携帯データ調査を違法と判断した。女性がアフガニスタン国籍であることを確認するため、移民局がスマートフォンを没収しデータを分析。その1カ月後に難民申請は却下された。

Keystone / Muhammed Muheisen

この女性はプライバシー保護活動家らの支援を受けて告訴し、勝訴した。裁判長は、ドイツ連邦移民・難民庁(BAMF)が調査中に入手した情報を不必要に保存したことが法律違反に当たると判断した。この訴訟は今後連邦憲法裁判所に送られ、17年制定の法律を覆す可能性がある。また、シリアとカメルーン出身の2人の移民も同様の訴えを起こしている。

移民の権利を専門にする弁護士マチアス・レーネルト氏は、今回のケースでドイツ当局は調査手法の見直しを迫られる可能性があると考えている。

高コストで非効率

専門家の間では、倫理的、法的な問題に加え、調査手法の有効性についても疑問視されている。

ドイツ自由権協会の19年12月の調査では、スマートフォンから収集した情報で難民申請者の虚偽の申告が判明したケースは、全体のわずか1~2%だったという。4分の1のケースでは、テクニカルな問題で携帯電話やその他のデバイスの解析ができず、残りのケースは申請者の申告内容を裏付ける結果が出ただけだった。

クルグ氏は、「ドイツの調査は、データ解析に必要な労力に対して利益が少ないことを示している」と言う。

データ解析に必要なツールやデジタルプログラムのコストも同時に調査された。その結果ドイツでは17年から18年4月までに760万ユーロ(約9億8100万円)、当初想定された費用の2倍にあたる費用がかかっていたことが判明した。

実験台?

レーネルト氏は、難民のデジタルデバイス解析は意味がないと断言する。

「政府は難民申請者を怖がらせる手段としてこれを利用している」と言う。また、これらのテクノロジーが別の目的で国民の他のグループの調査に使用されることを懸念している。「難民申請者は新しい管理・監視テクノロジーを試す実験台として使われている」

ドイツの調査をまとめたジャーナリストのアンナ・ビセリ氏と弁護士のレア・ベックマン氏も同意見だ。

両氏は調査の結びで、「BAMFのアプローチは、移民の管理・監視のために新しいテクノロジーを試すという国際的な潮流に沿っている。この種のテクノロジーが他の用途や他の人口層に拡大される脅威は、依然として残る」とつづっている。

議会で法案が承認された今、スイスのNGOはそれがどのように実施されるかを見守っている。

OSARのエンゲラー氏は、「この法律は熟考が重ねられておらず、不明瞭な点や欠陥がある。同法がどのように実施されていくのかを注意深く観察していく必要がある」と述べた。

(英語からの翻訳・由比かおり)

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