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研究者の差別やハラスメントを許さない

研究者が研究活動をするうえで大きな障害となるのが、差別やハラスメントだ。差別は研究の公平性を損なうだけでなく、「労力、人材、資金、評判、文化などのリソースを無駄にする」と、スイス連邦給水・排水浄化・水域保護研究所(Eawag)のジャネット・ヘリング所長は指摘する。

このコンテンツは 2021/08/28 09:00

すべての研究者にとって、研究活動の公平性は最高の善であり、最大限に守らなければならないものの1つだ。スイス科学アカデミーは5月、研究活動の公平性のための新行動規範他のサイトへを発表した。そこには、データの改ざんやその論文に関与しなかった人物の名前を著者とすることなど、研究者倫理に反するあらゆる不正行為が列挙・説明されている。

私にとって特に印象的だったのが、共同プロジェクトにおける科学研究の不正行為に関する項目だった。スイス科学アカデミーはあるまじき行為を次のように定義する。「特に文化的、社会人口統計学的な要因や、その他の個人的特徴や職業的背景に基づくハラスメントや差別を行うこと」

もちろん、研究者同士が差別やハラスメントをすべきでない理由は明らかだ。人としてすべきではないからだ。だが私たちが科学研究を行い、研究機関に従事していくうえで、人を差別してはならない理由は他にもある。それは、差別やハラスメントが起こると、幅広いリソースがまったく無駄になってしまう点だ。

多くの人に影響

組織内の差別やハラスメントを防止するには時間も労力もかかる。しかし、差別が起きれば、被害者や研究機関の職員への負担はさらに大きくなる。これは誰にとっても大きなストレスとなり、研究や実際の仕事に支障をきたす可能性がある。

当然ながら、関係者全員が研究機関での本来の業務に力を注げる方がよっぽど良い。コスト、労力、損失は、関係者の立場が専門的であればあるほど、ポジションが高ければ高いほど、そして機関での勤務年数が長ければ長いほど大きくなる。また忘れてはならないのが、マイノリティーは特にリスクが高いことだ。

「差別やハラスメントが起きると、その機関の規範や文化が損なわれ、完全に崩れてしまう可能性がある」

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この流れで、差別がもたらす2つ目のデメリットに言及したい。それは、差別やハラスメントを経験したり目撃したりした人は、学業やキャリアを断念することがある点だ。その結果、スイスは優秀な研究者を間違った理由で失うことになる。それはポテンシャルの無駄と言える。私たちは、研究者が自由に、恐れずに、自らの可能性を伸ばせるような環境を作っていく必要がある。

倫理的基盤と評判に傷

3つ目は、すべての大学及び研究分野には科学研究をする場所以上の意味があり、差別やハラスメントが起きると、その機関の規範や文化が損なわれ、完全に崩れてしまう可能性があるという点だ。研究をするうえで欠かせない倫理的基盤にも傷がつくだろう。そのため、個人の品格と研究における品格を直接関連づけているスイス科学アカデミーの方針は正しいと私は考える。一方が欠けては成り立たないからだ。

4つ目は評判だ。これは計り知れないほどの価値を持つリソースであり、極めて慎重に取り扱わねばならないものだろう。評判は研究機関が効率的に機能するために欠かせない。理由はいくつかある。1つは、スイスの大学や研究機関の資金は主に税金で賄われていることだ。また、連邦議会はEawagを含む連邦工科大学(ETH)グループの研究・教育機関他のサイトへに対し、差別やハラスメントを積極的に撲滅するよう求めている。私たちはこの要求を真剣に受け止めるべきだろう。

別の理由としては、差別やハラスメントを理由に評判を失うと、その機関の魅力が低下し、外部資金の獲得が難しくなる点がある。そこで、例えば欧州研究会議(ERC)他のサイトへはジェンダー平等を目指す方針を採用している。

余計な費用もかかる

リソースに関して言えば、5つ目は当然、費用面だ。差別やハラスメントが発生した場合、研究機関には弁護士費用、手続き費用、被害者への補償金など莫大な費用がかかる。繰り返しになるが、差別やハラスメントの結果に対応するよりも、防止策を講ずる方が費用対効果が高く、個人や機関への影響も少ないことは明らかだ。先にも触れたが、私たちには納税者への責任がある。納税者が私たちにお金を託すのは、研究、教育、技術移転に投資するためであり、訴訟や法律事務所に支出するためではない。

今こそ山積みの課題に取り組むとき

こうした無駄を前に何をすべきだろうか?解決策を見出すには、問題の大きさを認識することが重要だ。

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)は昨年7月、同校に置ける女性教授陣の地位に関する調査委員会の報告書他のサイトへを発表した。この報告書では給与や雇用だけでなく、研究機関の文化などの重点が分析され、対策が提言された。一方、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)ではこれに相当するような包括的な調査はまだ行われていない。しかし、ETHZは多様性を向上させ、差別やハラスメントを積極的に撲滅しようと多くの措置を講じてきた。この点は評価されるべきだろう。同校は30年前から機会均等・多様性部(equal!他のサイトへ)を設置しているほか、最近では女性が人材開発・リーダーシップ部の副部長に任命された。

とりわけ女性に対する差別やハラスメントを効果的に撲滅していくには、私たちの研究機関が取り組むべき課題はまだ山のようにある。だが、すでに行動を起こしている人も大勢いる。特筆すべきは、チューリヒとフリブール・ベルンに拠点を置く「500 Women Scientists他のサイトへ」というグループだ。このグループは、安全で独立した相談窓口プラットフォームの構築に取り組んでいる。また、グループ内外の多くの組織とともに、リソースとしての役割も果たしている。そうしたリソースを活用すれば、大学や研究機関、ETHグループはより良い協力関係が築け、差別やハラスメントをもっと効率的かつ持続的に撲滅していけるだろう。私たちのリソースを無駄にせず、ぜひ活用していこうではないか。

※このブログは連邦工科大学チューリヒ校のブログ「Zukunftsblog」に掲載されたものです。

(英語からの翻訳・鹿島田芙美)

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