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化学合成農薬の禁止は本当に必要?ファクトチェック

スイスでは13日、化学合成農薬の使用を完全に禁止するか否かを巡り国民投票が行われる Christian Beutler/Keystone

13日の国民投票では、化学合成農薬の使用を完全に禁止すべきか否かが問われる。だがイニシアチブ(国民発議)支持者の主張は本当に正しいのだろうか?農薬が与える真の影響とは?ファクトチェックを行った。

このコンテンツは 2021/06/04 06:00

13日、スイスの有権者はイニシアチブ「化学合成農薬のないスイスのために」の是非を決定する。同イニシアチブは、国内の農業及び個人・商業用での合成除草剤、殺虫剤、殺菌剤の全面的な使用禁止と、これらの農薬の輸入禁止を求めている。

イニシアチブ発起委員会はスイス西部が拠点。主要政党に属さない科学者や弁護士、農家らで構成されるが、緑の党を中心に政治的な支援も得ている。同党は農薬の使用規制を巡るスイスの努力不足を訴え、「スイスは減農薬に関する国際比較で、せいぜい中間に位置するに過ぎない」とホームページで指摘する。

スイスの現状

農薬の販売データは、スイスの国際的な位置づけを知る上で参考になる。加盟国37カ国で構成される経済協力開発機構(OECD)の数値を緑の党は引用するが、それによると単位面積当たりの農薬使用量でスイスは中間に位置する。

ただし、この数値は2011~15年までの期間のみが対象。国連食糧農業機関(FAO)のより新しい数値(18年まで)を見ると、スイスでは1ヘクタール当たり4.9キログラムの農薬を使用。これはフランスや英国(またはトルクメニスタン、グルジア、アルゼンチン、ドミニカ共和国など)と同レベルだ。つまり問題となっている化学農薬の使用に関し、スイスは優等生でもなければ、遅れを取っているわけでもない。

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国が農薬をどう扱っているかを評価するには、近年の需要を調べる必要がある。欧州連合統計局(ユーロスタット)が発表したデータによると、スイスでは11~19年にかけて農薬の販売が減少したが、同時期の他の欧州諸国ほどではない。

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量か質か

状況を更に詳しく理解するために、使用されている農薬の種類や販売パターンも検証してみよう。除草剤の売上は6年前から減少を続け、問題のグリホサート系除草剤の売上は10年間で63%も減少した。2019年に販売された農薬のトップ5は、イオウ(殺菌剤)、パラフィン油(殺虫剤)、グリホサート(除草剤)、フォルペット(ブドウ栽培における殺菌剤)、マンゼブ(殺菌剤)だった。ちなみにイオウとパラフィン油は、従来の農業だけでなく有機農業でも許可されている。

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国際比較では中程に位置するスイスだが、国民への健康リスクはどうだろう?農薬の毒性は、一般的に非常に幅広い範囲で健康に影響を与える。人体に対する潜在的な害に応じて農薬を分類した世界保健機関(WHO)の新しいデータは、その評価に役立つ。

スイスで承認されている360種類の化学物質とWHOの危険有害性分類を比較したところ、170種類が一致した。分析の際、WHOが「極めて危険」に分類したある1つの農薬が目に留まった。それはスイスで「Arvicolon 200 CT」の商品名で販売されている有効成分、ブロマジオロンだ。他にも4種類の化学物質(アバメクチン、メソミル、テフルトリン、ゼータ-シペルメトリン)が「非常に危険」に分類され、その他の約100種類の化学物質は「中程度に危険」と「やや危険」だった。

swissinfo.ch

スイスは国内の農業で一部農薬を減らせたが、輸入品にも目を向ける必要がある。スイスは植物性食品の約6割を外国産に頼っているためだ。

スイスの人権NGOパブリックアイの調査によると、当局が2017年に検査した輸入食品の1割以上で使用禁止農薬の残留が確認された。また連邦内務省食品安全・獣医局(BLV/OSAV)のデータによると、17年の検査では合計52種類の使用禁止農薬を検出。つまり輸入食品も考慮しなければ、消費者への健康リスクは過小評価される恐れがある。

結論:主張の大部分は妥当

農薬の販売や使用の制限に関し、スイスは国際比較で中間に位置する。ただし(除草剤など)数種類の農薬に関しては、評価以上に削減が進んでいる。国内で使用が認められている農薬は、基本的に毒性があまり強くない。また販売されている農薬の4割以上は有機栽培でも認められている物質だ。

隠れたリスク要因

あまり注目されていないリスク要因として、水や地下水、土壌中の残留農薬が長期間に渡り分解されずに残留し続けることがある。スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のベルンハルト・ヴェーリ教授(水化学)は、除草剤のアトラジンといった一部の農薬は「その物質の使用禁止後も、何十年も検出され続ける」とブログ他のサイトへで述べている。また、農薬の代謝物はより水溶性が強いことが多く、農薬そのものよりも残留期間が長いケースもあると警告する。例えばスイスでは現在も使用されている殺菌剤のクロロタロニルは、発がん性の可能性から欧州連合(EU)では承認が更新されなかった。最近行われた地下水の科学分析では、全31サンプルからクロロタロニルの代謝物が検出され、20サンプルからは新たな代謝物が検出された。研究者によると、これらの代謝物は、活性炭やオゾンなど高度な水処理技術を用いてもろ過や分解が難しい特性を持つ。

またあまり言及されないが、農薬使用量に影響を与えるもう1つの要因に「天候」がある。除草ロボットなどの新技術が除草剤の削減に貢献しているが、殺菌剤などの化学農薬の使用量は天候に大きく左右される。スイス連邦経済省農業研究センター(アグロスコープ)の責任者、エヴァ・ラインハルト氏は、「温暖で湿度の高い年には、カビや細菌が爆発的に増殖するため、殺菌剤の使用量が増える」と説明する。例えば病気に強いジャガイモなどの品種開発が進められているが、問題の1つに、遺伝子組み換え食品が消費者に受け入れられていないことがあるという。

「遺伝子組み換えを行ったジャガイモは病原菌に耐性があり、農薬がいらない」とラインハルト氏は言う。「消費者は無農薬の食品を求める一方で、遺伝子組み換えの作物を受け入れる準備がない。それが私たちの直面するジレンマだ」

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(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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