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直接民主制

世界中で試練に立たされる表現の自由

民主主義の柱である「表現の自由」が揺らいでいる。この権利を支持しない政府は世界中に存在する。表現の自由の名の下に、個人や団体がヘイトスピーチや差別的な発言をすることが昨今問題になっている。スイスでは、表現の自由を巡る法律の是非は国民に判断が求められてきたが、それは非常に危うい綱渡りとも言える。 

このコンテンツは 2021/09/03 13:43

表現の自由は原則として明確に規定されている。世界人権宣言(1948年)と、市民的および政治的権利に関する国際規約(66年)の第19条には次のように記されている。「すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」

欧州では、表現の自由を定めた欧州人権条約(50年)の第10条は、法的拘束力のある権利として確立している。スイスは、99年に全面改正された憲法第16条にこの権利を定めている。

しかし、実際にはまだ多くのことが不明確なままだ。それが露呈したのが、今年初めの米政権交代を巡る衝撃的な出来事だった。またこの夏、swissinfo.chのウェブサイト上で始まった10カ国語の議論のコーナーでも、表現の自由の問題は極めて複雑なことがはっきりした。

ソーシャルメディアは公の議論に欠かせないツールとなったが、民主主義の推進力として考えられることは今やほとんどない。フェイクニュース、陰謀論、ヘイトスピーチの発生源としてみなされることの方が多いだろう。SNSを巡る問題への対応策として、世界中の国々が新たな規制や対抗措置を講じようとしている。世界的に先駆的な役割を果たしたのが、「ネットワーク執行法(NetzDG)」を制定したドイツだ。台湾は「プロソーシャル(向社会的)」なデジタルインフラを構築。一方、スイスは今のところSNS関連の規制を定めていない。

スイスでは、表現の自由を巡る可能性と限界について、市民が直接民主制の制度(イニシアチブとレファレンダム)を通して繰り返し幅広い議論を行い、法的拘束力のある国民投票も行う。表現の自由は現代の民主主義における柱であるため、それに関する決定を国民が下すことには危うさも伴う。しかし国民投票がスイスの政治文化には欠かせないことは周知の通りだ。

スウェーデン・ヨーテボのV-Dem研究所によると、今年はブラジル、インド、トルコなど20カ国・地域(G20)の一部参加国が民主制から権威主義へと変貌(へんぼう)した。これらの国では執筆活動をする人だけでなく、風刺画家も当局から検閲を受けている。そのため風刺画家は当局の許容範囲を探りながら作品作りに取り組んでいる。

ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領のような非自由主義的でポピュリズムを擁護する政治的リーダーの台頭も、表現の自由にとって試練と言える。しかしブラジルでは現在、民主主義路線の対抗勢力が前進している。彼らの目標は、積極的な市民参加による民主主義の強化だ。世界各地で、人々は表現の自由の権利を主張しているが、状況は非常に異なる。私たちの「自由の声」の世界ツアーがそれを示している。

国境を越えたインターネットの世界では、国際的なテック企業と国家機関が互いに対立している。しかし、どちらも、少なくとも民主主義の形だけでも取り繕っておきたいとの考えを持つ。そのためフェイスブックは独立した監督委員会を、欧州委員会はデータ保護監督当局を設置している。インターネットが登場して最初の数十年間、世界各国にドメイン名を割り当てていたのが、比較的民主的に組織された国際NPO「ICANN」だった。同様に今後はグローバルなオンライン市民委員会がインターネットの規制を担うことが考えられる。そのような組織の拠点にはスイスのジュネーブが適しているだろう。

情報が拡散するペースは上がっている。「だからこそ、偽情報やヘイトスピーチに対する公的な対応は迅速でなければならない。1晩何もしないでいるだけで、人はこうした拡散情報を長期記憶に結びつけてしまう」と、台湾のIT大臣オードリー・タン氏はswissinfo.chのインタビューで述べている。しかし、スピードだけでなく、対応の中身も重要だ。「偽情報が広まるのと同じタイミングで、例えば(偽情報が拡散してから)数時間以内に、報復や差別、復讐ではなく、楽しさをシェアできるようなコミカルな情報を対抗措置として拡散すれば、皆の気分が良くなるだろう」

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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