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チョコレート業界が児童労働問題に苦戦するワケは

米政府の調査で、コートジボワールやガーナでは今も156万人の子供がカカオ農園で働かされていることが分かった。その多くは有害な化学物質にさらされている Keystone / Legnan Koula

米国政府の委託で行われた調査によれば、カカオ豆のサプライチェーンにおける児童労働は過去10年間で悪化している。各国政府や主要企業、業界団体が手を打っているのに、これほどまでに児童労働の改善が見られないのはなぜだろうか?

このコンテンツは 2020/11/18 08:30
Jessica Davis Plüss (text), Kai Reusser (visuals)

カカオ貿易業者やチョコレートメーカーの多くは、スイスに拠点を置いている。今回、西アフリカのカカオ生産地で暮らす子供たちの状況にほとんど変化がないことにハッとさせられたことだろう。

シカゴ大学の世論調査センター(NORC)は、米国労働省の依頼を受け5年前に調査を開始した。10月半ばに発表された調査報告書によると、コートジボワールとガーナのカカオ栽培地域で児童労働にあたる子供の割合は、2008~19年の間に31%から45%へと14ポイント増加している。

国際メディアは手厳しく批判した。ワシントン・ポスト紙などは「カカオのサプライチェーンから児童労働を根絶するという、長年の約束の実現を目指していたチョコレートメーカーの著しい失敗」とつづった。

だが、チョコレート業界自身はこの調査結果にあまり驚かなかった。過去20年間にカカオ栽培地域でプロジェクトやモニタリング、認証スキームに数百万ドルを投じ、問題解決の難しさを実感してきたからだ。

業界側は過去から教訓を学んだと言うものの、活動家らは、米国の報告書は大手カカオ企業が自力で規制できていないことを証明するものであり、スイスの11月29日の国民投票で賛否の問われる「責任ある企業イニシアチブ(国民発議)」が求めるような強制的な措置が必要だと主張している。

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監視の限界

カカオ業界は、2001年に米国、ガーナ、コートジボワールの政府とチョコレート製造業者協会が、過酷な児童労働の廃止を誓ったいわゆる「ハーキン・エンゲル議定書」は詰めが甘かったと認めている。

世界カカオ基金(WCF)は、目標が「アフリカ農村部の貧困に大きく関わる課題の複雑性とスケールを十分に理解せずに設定された」と指摘している。多くのチョコレートメーカーが、自社の扱うカカオ豆の大半がどこから来ているのかを知らず、競合する力もなかった。

業界の支援を受けて児童労働問題に取り組むジュネーブに拠点を置く組織、「国際カカオイニシアチブ(ICI)」は、「最大の教訓の一つは、違反者を罰するというコンプライアンス(企業統治)的な取り締まり方は、子供を労働力として使う以外に選択肢のない家族経営の農家に対しては機能しない、ということだ」という。

これまでは規定に違反する農家の認証を取り消すという方法で「児童労働ゼロ」を目指していたが、このやり方では問題を単に発見しにくくし、取り組みがさらに困難になる場合もある。明らかに無理があったとICIは話す。

2014年、チョコレートメーカーはより持続可能なカカオセクターを構築するため、業界全体の戦略として貧困の根底にある問題解決への投資を開始した。カカオ豆が不足する中でアジアではチョコレート需要が急増し、世界のカカオ不足に拍車がかかると業界が警告していた時期だった。

世界のカカオ生産量の7割を占める西アフリカで、生産性を高める農法に投資するプロジェクトが展開された。

プラスの成果もあった一方で、それが児童労働を悪化させる原因にもなった。「今ではコートジボワールとガーナでカカオを栽培する世帯が増えており、残念なことにカカオ農園で労働を強いられる子供たちが増えている」とICI は話す。

児童労働の定義

シカゴ大学の世論調査センター(NORC)の報告書は、国際労働機関(ILO)の定める枠組み内でコートジボワールとガーナ両政府が示す児童労働の定義に基づいて作成されている。NORCは、ILOが各年齢層ごとに設定した最大許容労働時間を超えて経済活動に携わる子供や、カカオ生産で異なる種類の六つの危険な活動にさらされる子供を、カカオ生産における児童労働者と定義すると記述している。

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市場に翻弄されるカカオ農家

また、変動する国際市場価格に翻弄されるカカオ農家の収入にも悪い影響が出ている。農家の多くは2~4ヘクタールの土地で働いており、各国政府が決めた固定価格(ファームゲート価格)を受け取っている。国際市場価格から輸送費などを差し引いたものだ。

元カカオトレーダーのミキエル・ヘンドリクスさんは、コートジボワールなどで持続可能な農業プログラムを主導する「ファームストロング財団(Farmstrong Foundation)」を設立した。「農家の生産量が2倍になれば、幸せも2倍、健康も2倍、そして教育も2倍になるといった考え方がある。このため、政府や企業は農家の生産量を増やすために多額の資金を投入するようになったが、同時に製品への需要が増加しなければ、長期的には市場を圧迫することになる」と言う。

業界の監視団体は、チョコレートメーカーが農家に対し公正な価格を払うべきだと主張している。カカオ農家はチョコレートバーの総コストの7%以下しか受け取っていないとも推定されている。

ガーナとコートジボワール両政府は昨年、カカオ農家の収入を安定させるため、カカオ1トン当たり400ドル(約4万2千円)の割増金を払うことを決定した。

業界連合は農家からの買取価格を上げる必要があることには同意しているが、一部の専門家は、人為的に価格を上げるような動きは逆効果になる恐れがあると警告している。価格上昇により農家が栽培量を増やすようになれば、世界の市場価格が急落しかねないからだ。

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カカオ豆を超えて

スイス西部とコートジボワールを行き来するヘンドリクスさんは、ファームゲート価格を引き上げたからと言って、農家が日常生活に必要なものをより多く購入できるようになるわけではない、と話す。

「国の農業政策は、ゴム、カシューナッツ、綿、カカオなど輸出用の換金作物を中心に展開されている。コートジボワールは今では、食用油、小麦、砂糖、肉、魚などの基本的な食料品さえも輸入しなければならなくなっている」(ヘンドリクスさん)

また、児童労働を撲滅するには、カカオや農業とは無関係な分野でも様々な種類の複雑な取り組みが必要だと主張する。多くの場合、健康、栄養、教育、インフラ、あるいはそれらの欠如が組み合わさっており、農業で表面化する問題はそういった問題の結果であり、農業自体が児童労働の原因ではないと説明する。

カカオ業界もこの見解には同調しているようだ。大手のカカオ取引業者やチョコレートメーカーは全て、認証や検証システムと、学校や医療施設の建設や農家の収入を多様化するプロジェクトを組み合わせた計画を発表している。

世界で消費されるチョコレートやカカオ製品の4分の1を生産するバリー・カレボー社(本社・チューリヒ)は、数年前、持続可能性戦略「フォーエバーチョコレート」を開始した。50万人のカカオ農家を貧困から救出し、児童労働を根絶し、二酸化炭素の純排出量の削減、森林の拡大、持続可能な材料の使用という目標を掲げている。

キットカットやカイエなどのブランドを展開するネスレもまた、水環境の整備、衛生、男女平等の推進を優先事項として取り組む「カカオプラン」を始めている。

ネスレの人権問題への取り組みを主導するシニア広報部長のヤン・ヴィスさんは、swissinfo.chの取材に対し、企業が農家を取り巻く土地環境全体に働きかけるコミュニティー・アプローチをとるのは良いことだが、それだけで企業責任が果たされるわけではないと話す。「私は、コミュニティー・アプローチのみに限るべきだと企業が言うことに抵抗がある。彼らは自分たちのサプライチェーンにおいて絶大な影響力を持っていることに目を向けていない」

「根本的な原因に取り組むために何が必要なのかを理解するには、サプライチェーンで何が起こっているのかを知る必要がある。各コミュニティーや家庭、農家はそれぞれに異なっているため、それぞれに合わせた解決策を考えだすことが必要だ」

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スイスの取り組み

このような取り組みが真の変化につながるかどうかは、その規模に左右される。コートジボワールだけでも、300万人以上の子供たちがカカオ栽培のコミュニティーで生活していると推定されている。

スイス政府も国レベルでの調整を図っており、スイスのカカオ産業と非政府組織(NGO)「持続可能なカカオのためのスイスプラットフォーム(Swiss Platform for Sustainable Cocoa)」の提携に、760万フラン(約87億円)を投入している。

スイスは世界のカカオ豆の2%しか輸入していないが、世界中でカカオ豆の取引やチョコレート製品の販売をする大手のカカオ取引業者やチョコレートメーカーの本拠地でもある。

このNGOは、フェアトレード認証やレインフォレスト・アライアンス認証だけではなく、企業が第三者検証プログラムを導入することで、スイスに輸入される全てのカカオ豆が「持続可能なもの」であることを目指している。

スイスの連邦経済省農業局とネスレに数年間勤務したのち、同NGOの事務局長に就任したクリスチーヌ・ミュラー氏は、認証システムは問題解決策のほんの一部でしかないという。「認証を取得したからと言って、児童労働をしていないと100%保証することはできない。監査は年に一度しか行われていない」

同NGOはまた、現地の進捗状況を監視するための原則と基準を設定し、連邦経済省と産業界の共同出資を受けて、農家の所得や作物の多様化などの分野で試験的なプロジェクトを実施している。

このような努力によって、不成功に終わったハーキン・エンゲルス議定書の二の舞を回避できるかどうかはまだ分からない。

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