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スイスを襲う「ワクチン疲れ」

6月29日、ティチーノ州のメンドリージオにあるワクチン接種会場はガラガラだった Keystone / Pablo Gianinazzi

ワクチンは十分にある。足りないのはワクチン接種への意欲―多くの先進国はこうしたぜいたくな悩みを抱えている。スイスも例外ではなく、新型コロナウイルスのワクチン接種率が伸び悩んでいる。

このコンテンツは 2021/08/07 09:00

「もうワクチン打った?」―春先にはあいさつ代わりに交わされた質問だ。冬の間はワクチンの調達の遅れや配送ミスが問題視されていたが、4月以降はワクチンキャンペーンの成果でスムーズに行くようになった。

スイスでは現在、12歳以上が新型コロナウイルスのワクチンを接種できる。だがワクチンキャンペーンが軌道に乗って間もなく、接種希望者が枯渇してしまった。ワクチン自体は十分な量を調達済みだが、接種ペースは数週間前から停滞している。

こうした傾向がみられるのはスイスだけに限らない。世界全体的にみればワクチンは不足気味だが、十分に調達した国でも人々はワクチン接種への意欲を失っている。

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その結果、世界のワクチン接種ペースは6月下旬にピークに達し、伸び悩んでいる。特にスイスのペースダウンは顕著だ。当局は広報を強化し、移動式のワクチン会場を設け、無料でケーキを配るといった対策に出た。だがその成果は乏しい。

先行者共通の問題

スイスよりも早く接種ペースを押し上げた国は、こうした落ち込みを経験済みだ。

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イスラエルはいち早くワクチンを確保し、接種ペースは記録的な速さだった。若者も接種対象になったことで最近また少し接種率が上がったが、ペース自体は4月以降停滞したままだ。比較的人口比率が若く、人口の66%以上が少なくとも1回ワクチンを済ませたことも停滞の背景にある。

米国も、欧州諸国がワクチン供給を待っている間から早々と接種を開始した。だが4月には需要が供給を下回り、接種ペースが陰ってきた。打開策として、各州が現金支給やドーナッツ・薬物の無料配布などさまざまな「報奨」を用意した。ワクチン接種者はマスク着用義務も免除された。現在、米国の接種率は56%に達している。

大規模接種のトップバッターの1つだった英国。2月以降は供給能力の制限もあり、接種ペースは一進一退だった。6月に入ると大きく落ち込み、政府はテコ入れに乗り出した。7月初め、サッカー欧州選手権のチケットを配布。介護施設の従業員には接種を義務付けた。今は人口の68%強が接種済みだ。

早い停滞期の訪れ

他国で起きたことはスイスにも起きている。スイス連邦保健庁感染症班のヴィルジニ・マセレ班長はswissinfo.ch に対し「他の国では、完全接種率が50%を超えると接種意欲がやや低下することが確認されている」と話した。「だがこれはペースの鈍化にすぎない」

とはいえ、スイスでは他国に比べると鈍化のタイミングが早かった。周辺国でも一様に接種ペースが落ちているが、スイスほど早くなく、もっと多くの国民が接種を済ませた段階でペースダウンした。

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数週間前までは、スイスがフランスの接種率を追い抜きそうなペースだった。だがフランスはマクロン仏大統領が医療・介護従事者に接種を義務付けると発表し、ペースダウンを免れた。足元でも他の国と同様、スイスの接種率を上回っている。

イタリアは接種率が60%を超えたが、周辺国ほどペースダウンしていない。医療従事者に対する義務づけや、分厚い高齢層の接種率が比較的高いことが背景にある。

ドイツやオーストリアもスイスよりずっと接種率が高く、ペースもさほど落ちていない。両国ではスイスよりもワクチン接種者(及び陰性証明・り患証明所有者)に大きな特権が与えられる。スイスではディスコやクラブに入れるだけだが、オーストリアではレストランや美術館にも証明が必要だ。ドイツでは他人との接触制限が免除される。

ワクチン疲れが無い国も

いくつかの国では、接種率が65%を超えて初めてワクチン疲れが訪れた。アイスランド、カナダ、ベルギーだ。ベルギーは感染者数が爆発し、結果的にワクチンへの意欲が高まったとみられる。カナダは英国と同じく、2回のうち1回しか接種していない人が比較的多い。アイスランドは接種率が75%に達したが、6月末に政府が全ての感染対策を解除すると宣言した途端にペースダウンした。

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接種が進んでいるにもかかわらず、ほとんどペースダウンしない国もある。スペインでは介護施設の職員で約90%、医療機関職員の98%と高い接種率を義務付け無しで達成。医療分野での義務付け案は立ち消えとなった。

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スペインとポルトガルはデルタ株の広がりがすさまじく、病院が満床になった。感染者の多くがワクチン未接種だったことが、接種への意欲を高めたようだ。

デンマークの感染者数の伸びはスイスをやや上回るが、医療崩壊には至っていない。デンマークは先日、ルーマニアからワクチン100万回分を買い取ると決めた。

ルーマニアでワクチンに余剰があったのはなぜか?ルーマニアは全国民がワクチンを打ったのか?それどころか、ルーマニアは欧州で最も遅れている国の1つで、接種率はわずか25%。ワクチンを希望する人も少ない。医療機関へのアクセスが悪いことや、政府への不信感が強いことが背景にある。

スイスはそこまで極端ではないが、十分な数のワクチンを確保している割には接種率が国際的にみて低い。新規感染者が増えて病床がひっ迫すれば、状況は変わるかもしれない。一方、接種の義務付けは政治的に非現実的だ。

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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