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スイスの銀行は気候リスク開示を 当局が異例の要求

金融機関は、不注意な環境的・社会的決定の結果によって消費されることに注意しなければならない Keystone / Rank Augstein

気候変動が深刻になり、金融機関も行動や考え方の変容を迫られている。スイスでは当局の異例の要求を受け、銀行らも本腰を入れざるを得なくなった。

このコンテンツは 2021/07/16 08:30

「銀行はもはや単なる金融の専門家にとどまらず、投資が環境や社会に残す足跡を見出す目利きでもある」。スイスプライベートバンク協会のイヴ・ミラボー氏は6月、会長としての最後の講演でこう語った。

それはスイス金融市場監督機構(FINMA)が5月末、銀行・保険会社に対し透明性を持って「(環境)リスクを公衆に適切に周知する」よう要求他のサイトへしたのを受けた発言だった。スイスでは通常、民間主体の活動は自主規制に委ねられる。FINMAが会計の公開を半ば強要したのは異例だ。

気候変動は金融業界に複数のリスクをもたらしている。ハリケーンや洪水といった自然災害の危険性は保険業界で明白だ。銀行もまた、環境汚染につながる融資をすれば社会的評価を落としたり訴えられたりする可能性がある。これにより、銀行員の働き方やリスク管理にも影響する。

こうした変化に適応すべく、リスクと投資効率を見比べるための旧来の「物差し」に、環境・社会要因が組み込まれつつある。

ミラボー氏は、環境汚染に関与する企業の株を銀行が売却しても、用心深さの薄い投資家に買い取られるだけだと指摘する。「(銀行は)債権者や株主として、企業によりクリーンなビジネスモデルを採用するよう圧力をかける方が効果的だ」

進路変更?

圧力団体はスイスの銀行に対し、環境被害を引き起こす企業やプロジェクトへの融資について定期的に説明を求めている。矛先に挙がるのはアマゾンや世界各地で起こる森林破壊や、ノリリスクの燃料流出事故他のサイトへ米ダコタ石油パイプライン計画他のサイトへなどだ。

こうした「汚点」は、スイスが持続可能な金融の国際拠点になるという目標とかみ合わない。

投資家の理念や事業活動の変化により、金融市場は「一定のコモディティーや製品・サービスの需要と供給が移り変わる」ことに直面する――気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)他のサイトへは2017年6月に公表した報告書でこう予見した。エネルギープロジェクトなどこれまで安全とされてきた投資が、今後は疎まれる可能性がある。

TCFDは金融安定理事会(FSB)が設立した機関。気候変動に対する懸念の高まりを鑑み、金融主体がガバナンス(企業統治)や戦略、リスク管理、目標設定を調整するのを支援する。スイスの金融業界は、気候関連リスクの見積もりにTCFD基準を使っている。

金融技術の新興企業グローバル・グリーン・エクスチェンジ他のサイトへのマルティン・ラーブ取締役は、FINMAが銀行に求めた気候リスクの完全開示は一筋縄にはいかないとみる。

「気候変動リスクをめぐる多くの要素は秘境のようで未知の世界だ」。ラーブ氏はswissinfo.chの取材にこう話した。「イタリアで洪水が起きたりオランダで海岸線が消えた時に、銀行のバランスシートに実際にどのような影響が出るのか?夏の乾燥はスイスの借り手の信用にどう影響するか?測定できるような正答はない」

コストの増加

世界自然保護基金(WWF)スイスは、FINMAが発した新しい規制要件は歓迎するものの、拘束力のある報告義務には消極的なことは「残念に思う」と表明した。「明確なガイドラインがなければ金融機関が開示するデータは、機関によって大幅な差が生じる。それによって気候関連の財務リスク評価・比較が大きく損なわれることになる」

WWFはまた、報告義務をスイスの金融機関以外にも広げるようFINMAに求める。

スイス銀行協会(SBA)はswissinfo.chに対し、中小銀行もいずれFINMAの求める気候リスク報告の対象になることは十分予想していると話した。現在報告要求の対象となっている5大銀行のうち、ポストファイナンスだけは気候リスクの開示にTCFDモデルを採用していない。SBAはFINMAの要求を完全に満たすべく「さらなる努力」が為されると予想する。

ザンクト・ガレン大学のマルティン・ナーリンガー他のサイトへ助教授(金融学)は、銀行のコンプライアンス部門が何層にも増え、経営コストが膨らむと指摘する。

「行員への研修や手順・ITシステムの開発・拡張など、コストがかかるプロセスになる」。FINMAも金融機関から提出されるデータを評価するために体制強化が必要になる可能性があるとする。

生まれる利益

経済協力開発機構(OECD)や世界銀行などの試算によると、気候変動に関するパリ協定の目標を達成するには少なくとも2030年まで毎年数兆ドルの資金が必要になる。

一方で、インフラの再構築やグリーン債・グリーン投資の発行、代替イノベーションの技術支援などから生まれる利益もある。

スイスのダニエラ・シュトッフェル財務官(国際金融担当)は今月、スイスプライベートバンク協会が主催した会議で、持続可能な投資は従来型投資よりも変動が小さく、投資家に確実性の高さを保証できると話した。

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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