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コミックで伝えるスイスの歴史 読者層広がる

歴史を扱ったコミックの人気は高まる一方。スイスでも同じだ Keystone / Gaetan Bally

歴史的な物語を語る手法としてコミックを取り入れる動きが広がっている。スイスも例外ではない。作者にとって嬉しいのは、このような作品がしばしば成功を収め読者層が広がることだ。

このコンテンツは 2021/01/02 08:30

書店の棚を見てみると、歴史的な物語を扱ったコミックの数に驚く。データを見ても、この動向が本物だとわかる。例えば、フランスで毎年出版される5千冊以上の新刊コミックのうち、10分の1以上が歴史をテーマにしている。

歴史もののコミックが存在感を放つのは今に始まったことではない。しかし新しいのは、スイスの歴史を扱うコミックの増加だ。

「スイスの歴史を扱うコミックは2、3年前から増えてきている」と話すのは、フリブール州のコミック専門店「ラ・ビュル(フランス語で吹き出しの意味)」の店主パスカル・シフェールさんだ。「今では主流と言っていい。毎月入荷している」

「特にジュネーブにコミック・イラストレーション専門大学があるお陰で、スイスのコミック作家が増えてきている」とシフェールさんは続ける。「またインターネットではスキャンしたコミックをブログに載せて、認知度を上げることもできる。そうしてスイスではコミック・ストリップ(連載漫画)の切磋琢磨が起こっている。若いコミック家たちにはもはやパリやブリュッセルへの劣等感などなく、スイスをテーマに語りたがっている」

幅広くアピール

コミックの利点は幅広い層に人気で、わかりやすいことだ。

「コミックはインターネットに取って代わられない稀な文学形態だということに気づいた。若者は(コミックを)読むし、コミックはあらゆる社会階層や世代に訴えるメディアだ」とイヴォン・ベルトレロさんは話す。ベルトレロさんは、バチカンのスイス衛兵についてのコミックの共著者だ。

バチカンで著書「Le gardiens du pape(仮訳・ローマ法王の護衛者)」を手にするイヴォン・ベルトレロさん(写真左)、ローレン・ビドーさん(同中央)、アルノー・デラランドさん(同右) Copyright 2019 The Associated Press. All Rights Reserved

フランス語圏スイス公共放送(RTS)の元ジャーナリスト、エリック・ビュルナンさんは同意する。

「コミックの利点は多くの人に人気で、わかりやすいことだ。幅広い年齢層にアピールする人気メディアだ」

ビュルナンさんは映画製作技術の知識を生かして、「Emma’s Century(仮訳・エマの世紀)」というコミックを手掛けた。ファニー・ヴォーシェさんがイラストを担当したこのフィクション作品は、前世紀に起きた5つの重要な歴史的出来事に直面した、あるスイスの一家の歩みを辿る。

コミックを用いて歴史物語を語ることは、パンフレットや写真の展覧会など、通常は別のコミュニケーション手段が使われる分野にも浸透してきている。例えば、フリブール州警察は治安警察サービスの100周年を記念してコミック本を出版した。「Memories of the Secret(仮訳 秘密の記憶)」は、秘密宗派、太陽寺院(Order of the Solar Temple)の集団死など、この州に衝撃を与えた出来事を6人のコミック作家が描いた6つの物語を収めている。

「コミックのアイデアを思いついたのは、100周年記念チームにコミックの熱心なファンがいたからだ」と、プロジェクトの共同マネージャーのジャン・パスカル・テルシエさんは話す。

「特に編集者と議論を進める中で、コミックの方が一般の人々への印象は強いだろうという話になった」

目標は達成された。本は増刷となり、印刷された2800部のうちすでに1850部が売れた。

「読者は基本的に州の住民なので、このような結果はまったく予想していなかった」とテルシエさんは言う。「このコミックがなければ、これほどの成功は絶対に収められなかっただろう」

多様な読者にアピール

コミック・ストリップは、普段は歴史に関心を持たない読者層に興味を持ってもらうための手段にもなりうると、コミック作家のサミュエル・エンブルトンさんは言う。エンブルトンさんは若い作家だが、既に第一次と第二次世界大戦の間のスイスについての二つの作品、「Stationed at the Border(仮訳・国境に配備されて」と「Switzerland resists(仮訳・抵抗するスイス)」を出版した実力の持ち主だ。現在はブルゴーニュ戦争を題材にした作品に取り組んでいる。

「コミックは、普段なら歴史に関心を持たない人や、学校で歴史に興味を持っていなかった人たちにアピールできる。(…)人々の心に訴え、身近だが一般的には語られずにきた物語を伝えたい。例えば、ジュラの国境警備隊の話は記憶の中にはまだ生きているものの、私が通った学校の先生の多くは軍隊の歴史の話を嫌がった」(エンブルトンさん)

コミックは読みやすく、一部の歴史書のように無味乾燥ではないのも魅力だ。「コミックでは感情を込めて物語を語ることができるし、フィクションと現実を組み合わせやすい」とビュルナンさんは言う。

しかしコミックには限界もある。ビュルナンさんは「映画より表現の範囲が狭い」と言う。「表現の範囲はかなり限られている。例えば私はある日、皮肉な態度を取っているキャラクターの作画指示を文字で伝えた。するとイラストレーターから、皮肉を描くのは難しいとコメントが来た」

エンブルトンさんも「確かに限界はある」と同意する。「例えば、パイロットが操縦席で経験する感覚を伝えるのは難しい」

書店での成功

歴史コミックは読者を獲得したようだ。この記事のために連絡をとった作家たちは皆、作品の成功に驚いたと話す。エンブルトンさんの最初の本は2千部売れ、ベルナンさんとヴォーシェさんも同様の成功を収めた。二人のコミックの初刷2千部は1カ月で完売し、2刷目の2千部もほとんど売り切れた。

スイスの歴史をテーマとしたコミックとしては、このような販売部数は立派なものだ。ただし、この分野のスター作家の販売部数には程遠い。例えば、1948年から続いている「Alix(アリックス)」シリーズは、あるガリア人奴隷がローマ市民となりカエサルの友人となる物語だが、最近、節目となる売り上げ2500万部を達成した(シリーズの最新作はスイスが舞台の「The Swiss(スイス人)」)。

「これらの結果は、読者がいることを示している」とシフェールさんは言う。「本を読む時間がないので、より速く読めて読みやすいコミックを好む人もいる。また、私たちはコミックを読んで育ってきた世代なので、チープな文学という印象は持っていない」

「コミックは、歴史書を一生開くことがないような人にも届くメディアだ」とシフェールさんは続ける。「しかし、もともと歴史が好きで、時には別の形で体験してみたいと思う人々にもアピールする」

(英語からの翻訳・西田英恵)

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